TAKIMOTO EYESvol.1

滝本 真中村 さよ

“TAKIMOTO EYS”の第1弾。対談のお相手は、岐阜県揖斐郡春日村で在来種にこだわってお茶を生産し続ける中村さよ氏。「春日ティーファクトリー」を立ち上げ、春日茶本来の美味しさを全国に広めているキーパーソン。数々のコンテスト受賞歴が、その美味しさを物語っています。今回は、滝本真と中村氏の出会いから、コラボレーション商品の誕生秘話、お互いの共通点まで読み応えのある対談になっています。

良い物同士って、お互いに競い合うんですよね。
お互いに主張し合うのがいいんです。

(滝本真)

お二人のなれ初めを教えてください。

中村 (以下、N)
いつか、自分の紅茶をフランスに紹介できたらいいなと思っていたんです。ある時、ベルギーやフランスによく行く知り合いから、滝本さんのお店を教えてもらいました。それで、わたしのお茶を滝本さんのお菓子で使ってもらえたら嬉しいと思い、思い切ってお店に足を運んで声をかけさせてもらったのがはじまりです。

滝本 (以下、T)
実は中村さんとお会いするほんの数日前に揖斐の抹茶を購入していたんです。中村さんからお話をもらった時は、内心、もう買ってしまったのにどうしようと思ったのですが、お茶を飲ませてもらったら抜群に美味しかった。だから、急遽、中村さんのお茶へ変更することを決断したんです。その翌日、今度はわたしが生産地である中村さんのもとを訪れてましたね(笑)。

N
そうなんです、飲んだ翌日には、うちに来てくれた滝本さん。その熱意にすごく感激しました。

中村さんのお茶は、他と何が違うんですか?

T
すべてが他のお茶とは違いましたね。複雑でありながらもストレート。良いものって、必ずそうなんですよね。食って、口に入れる前に来るもの、食べたときに来るもの、余韻がいいもの、この3つが良いと文句がないんです。ワインもコーヒーもそうですし、葉巻やチョコレートなんかも同じです。で、美味しさの理由は何なのかを中村さんに訊ねたら、この土地には積み重ねて来た歴史があったんです。ストーリーが育んだものって、やっぱり口に入れるとわかるんですよね。

N
この地には、さざれ石があります。君が代発祥の地でもありますからね、笑。

T
良いもの同士って、お互いに競い合うんですよ。良いものとそうでないものは、良いものが勝ってしまう。お互いに主張し合うのがいいんです。中村さんの話では、村自体の過疎化が進んで、畑がどんどん荒れはじめてきているそうです。働き手のお給料も高くない。この状況では、もちろん、若い労働力は出て来ないと。こんなに素晴らしいものが無くなって行くのは勿体ないじゃないですか。良いもので欲しい人が居れば、値段を高くするべきだと思うんです。発信力のある人や場所がこのお茶の良さを知れば、価値はちゃんと生まれると思ったんです。
わたしの師匠もフランスでは名前があるので、そういった人に紹介して広めたいという気持ちも生まれました。世界的に活躍してる人や食文化がしっかりした場所で紹介すればもっと広がるはずですからね。

N
うちのお茶を滝本さんが使ってくれる、フランスにも紹介してくれることは、とても光栄でした。扱ってもらえるだけでも嬉しいのに。
わたしのお茶には、強い思いが入ってます。お茶の葉自体は、春日村のものはどれも同じです。思いが入ったエネルギーの分だけ味が違うのかもしれないですね、笑。もちろん、細かく面倒な作業工程を端折らないなどの気遣いはあります。春日村の在来種垣根はどれも百年以上経っており、わたしが作ってる在来種は、全国でも3~5%くらいしか残ってないと思います。

滝本さんがおっしゃるように、
良いものには、
本当に力強さがあると思います。

(中村さよ)

在来種茶葉の特長は何ですか?

T
わたしは、好奇心で生産地に来ただけなのでよくわからないのですが、お話を聞いてると、同じ特徴を持った葉同士は交配をしないそうです。雑種同士で生きて行く自然なスタイルが味に現れてるんだと感じました。
それがこの土地の積み重ねてきた歴史なんだと思います。お茶の葉を見ただけで良いか悪いかは判断できないけれど、いろいろなお話を聞いているうちに、飲んだ時の美味しさが確信みたいなものに変わっていきましたね。

N
お茶の葉は、生産工程次第でいろんな香りが出せるんです。
だけど、在来種で作る香りには勝てない領域があるんです。在来種以外には、限界があります。そのものが持ってるパワーや特性が違うんでしょうね。だから滝本さんがおっしゃるように、良いものってのは、本当に力があるものなんだと思います。在来種は根っこが太くて、横にしっかり伸びて行くんです。だからたっぷりミネラル分を蓄えれるんです。

T
植物ってそうですよね、栄養を探して根をどんどんはっていく。だから、過酷な土地で生きたものは強いです。ストレスをある程度は与えないといけないんでしょうね。今回、いい材料に巡り会わせてもらえたことは、うちにとっても本当にラッキーなことでした。

滝本さんが各務原にお店を構えた理由は?

T
わたしは、幸運にもヨーロッパや東京で良い経験や良いものを見ることができました。それを地元の人たちに知って欲しいという思いは、少なからずありました。東京の人が訪れても遜色のない店が開きたかった思いもあったかもしれません。ただ、そんなことよりも、人が集まる、人と会える場所を作りたかったのが一番ですね。お店がなければ会えない人っていっぱい居ると思うんです。そのためのお店でありたいといつも思っています。自分がいいと思うものが、まわりに認められるとうれしいじゃないですか。それが人でも同じことです。いろんな方を紹介して、紹介した人たちが広く知られていくのは素直にわたしの喜びになっています。

コラボレーションの魅力を教えてください。

T
コラボの面白みは、責任が発生するところじゃないでしょうか。ちょっと背伸びしなきゃいけない。プレッシャーで大切なことを再確認できるんです。今後、思い切っていろいろな所に出店していく計画も同じことだと思っています。背伸びすることってしんどいんですけど、そこで新しいことを学べば、またその次は、さらに背伸びできるかなという感じです。本音を言えば、コラボレーションはやりたいわけじゃないですよ、笑。
そして、コラボレーションは一発で終わったら、ただの商売になってしまいます。より長い付き合いをしてお互いが成長して行く関係にしないと意味が無い気はします。

N
わたしもコラボレーションはすごく責任を感じます。わたしのお茶をチョコレートに入れて、ちゃんと美味しくなるのかという不安がありました。チョコレートにはどんなお茶が適しているのか、深煎りが合うのか浅煎りが合うのか、いろいろと思案するきっかけをいただけました。視野の広がりも痛感しました。だから、滝本さんに使っていただいてからの広がりは、わたしの理想や願いに向かっています。すごく嬉しいです。本当に有り難いです。

今後のお二人の夢をお聞かせください。

N
この春日村は、紅茶の産地で有名なインドのダージリンに似ていると言われているんです。だから、わたしの夢は、この春日村が紅茶の産地として認められることです。紅茶をつくっている人は全国各地にいますけど、日本で紅茶の産地と呼ばれている場所は無いと思いますので、春日村がそんな存在になれれば幸せです。

T
わたしは、もっと有名になりたいです、笑。あはは、語弊がありますかね。自分がさらに力をつけて名前を売って行くことは、単に目立ちたいからではなくて、やれることが増えるからです。自分の元で一生懸命働いてくれてる子の未来に関わることです。僕が、今こうして独り立ちして頑張れているのは、やはり知名度のある師匠のおかげだったからです。だから今度はわたしが、下の子のためにもそういった存在になっていかなければならないと思っています。そして、自分に関わってくださった人たちが、今よりも良い生活をして欲しいですね。もちろん、わたしも含め、みんながそうなれたら最高だと思っています。